瓦斯《ガス》が発生して、艇長を除く以外の乗組員は、ことごとくその場で斃《たお》れてしまいました。
そうして五人の生存者には、その時から悲惨な海底牢獄の生活が始まって、刻々と、死に向い暗黒にむかって歩みはじめたのです。
しかし、万が一の希望を繋いでいたとはいえ、あの夢魔のように襲いかかってくる自殺したい衝動と、どんなに……闘うのが困難だったことか。ところが、その日の夜半、突然艇長の急死が吾々《われわれ》を驚かしたのです。
艇長は士官室の寝台の上で、左手をダラリと垂れたまま、脈も失せ氷のように冷たくなって横たわっておりました。それは、明白な自然の死でした。誓ってそうであったことだけは、かたく断言いたします。
なぜでしょうか……それにはまず、吾々は艇長に対し寸毫《すんごう》の敵意さえもなかったことが云われます。それに吾々は、万が一の幸運の際のことも考えねばなりません。そうなった時、なんで艇長の指図なくして吾々の手が、迷路のような装置を操り脱出できましょうや。
ところが、続いて驚くべきことが起ったのです[#「続いて驚くべきことが起ったのです」に傍点]。それはその後[#「それはその後」
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