どろ》きというのは、この船が独艇ではなく、墺太利《オーストリヤ》の潜航艇だということであった。
「驚いた。だが光栄至極にも、われわれはフォン・エッセンの指揮下にある、潜航艇に乗り込んでしまった。あの人は、墺太利《オーストリヤ》の、いや欧羅巴《ヨーロッパ》きっての名将なんだ。鬼神、海神といわれる――いつかウインに、記念像《デンクマル》を持つのは、この人以外にはないというからね」
ヴィデがすぐ、こんなことを、一同の耳に囁《ささや》きはじめた。乗組員は二十名、艇《ふね》は、一九〇六年の刻印どおり旧型の沿岸艇だ。
巡航潜水艇ではない。それにもかかわらず、七つの海を荒れまわる胆力には驚嘆のほかないのである。
しかも、艇内の四人は、厚遇の限りを尽されていた。どこでも、自由に散歩ができるし、おりには、艦長とも戯《ざ》れ口を投げ合う。
そして艇は、女王《クイーン》シャーロット島《ランド》を後に、北航をはじめたのであったが、まもなく艇首をカムチャツカに向けた。
その間も、十三|節《ノット》か十四節で、たいてい海面を進んで行った。事実水中に潜ったことは、数えるほどしかなかった。一度はかれこれ、五
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