らグワンと一つ、御見舞申してもらいたいもんだな。なアに、君の腕なら、潜航艇も抹香鯨《スパーム・ホエール》も同じことさね」
「いやかえって、明日入港というような晩が危険なんです。船長、甲板で葉巻は止めていただきましょう」
 と、銜《くわ》えていた葉巻を、グイと引き抜いたとき、かたわらにいた、無電技師がアッと叫び声を立てた。
「おいヴィデ君、ありゃなんだ?」
 そうして一同は、高鳴る胸を押えて、凝視することしばしであった。
 飛沫《しぶき》のなかを、消えあるいは点いて……闇の海上をゆく微茫《びぼう》たる光があった。その頃は、小雨が太まってき長濤《うねり》がたかく、舳《へさき》は水に没して、両舷をしぶきが洗ってゆく。そうして、ヴィデは部署につき、無電技師は、電鍵《キイ》をけたたましく打ちはじめたのである。
「危険に瀕す。現在の位置において、救助を求む」
 その返電に、晩香波《バンクーバー》碇泊艦隊から、急派の旨を答えてきたが、しかし、時はすでに遅かった。
 ヴィデも、長濤《うねり》に阻まれて、照尺を決めることが出来ない。なにしろ、相手は一点の灯、こちらは、闇にうっすらと浮く巨館のような船体で
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