る。
「ところで、いざという時には、電光形《ジグザグ》の進路をとるんです。絶えず羅針盤《カムパス》で、四十五度の旋回をやる。そうすると、よしんば潜航艇が船影を認めたにしろ、魚雷を発射することが、非常に困難になってくるんです。
 ねえ、そうでしょう。最初目的の船の、進路と速度を正確に計算しなけりゃならぬ。それから、いよいよ発射する位置にむかって、潜行をはじめるのです。
 ところがねえ、さてという土壇場になってまた潜望鏡《ペリスコープ》をだすと、なにしろ、船のほうは電光形《ジグザグ》の進路をとっている。そこで、計算をはじめから、やり直さなけりゃならなくなるんです。
 それから端艇《ボート》は、上甲板の手縁《レール》とおなじ線におろしておいてください。いや、すぐ降ろせるように。それから、水樽とビスケットを……」
「だが、本船の危険は、もう去ったも同じじゃないか」
 八住船長は、ヴィデが警戒をはじめたのを、不審に思ったらしい。
「とにかく、夜明けまでには、晩香波《バンクーバー》へ着く。それに、本船には大砲があるのだ。ヴィデ君、君も、砲術にかけては、撰《よ》り抜きの名手じゃないか。ハハハハ、出た
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