》シャーロット島《ランド》を遠望する海上であった。
日が暮れると、同時に重い防水布を張り、電球は取り除かれて、通風口は内部《なか》から厚い紙で蓋をしてしまった。操舵室も海図室も同じように暗く、内部も外部《そと》も、闇夜のような船であった。
「ですが、奴らは、なかなかうまくやりますからね」
六回も、独艇の追跡をうけたという手練のヴィデは、碧い眼をパチパチと瞬《またた》いていった。
「僕は、本船のまえは仏蘭西《フランス》船にいたんですが、あれに、こういう大砲《やつ》の一、二門もあったらなア。なにしろね、船に魚雷を喰わせやがって、悠々と現われてくるんです。おまけに、奴ら、桟敷にいるような気持で、見物しているじゃありませんか。
ところが船は、右舷をしたに急速に傾斜してゆく。それから、全員が去っても、まだ私たちは船橋に止《とど》まっておりました。すると、そこへ近づいてきて、立ち去らなきゃ、殺すぞと嚇《おど》かすんです。いや間もなく、私だけは漁船に救けられましたがね」
それからヴィデは、通風筒の蔭で莨《たばこ》に火を点《つ》けたが、なんと思ったか、遭難事の注意をこまごま聴かせはじめたのであ
前へ
次へ
全147ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング