、いつか澄んだ碧《あお》みを加えて、やがては黄道を覆い、極から極に、天球を涯《はて》しなく拡がってゆくのだ。
いまや、岬の一角ははっきりと闇から引き裂かれ、光りが徐々に変りつつあった。
それまでは、重力のみをしんしんと感じ、境界も水平線もなかったこの世界にも、ようやく停滞が破られて、あの蒼白い薄明が、霧の流れを異様に息づかせはじめた。すると、黎明《れいめい》はその頃から脈づきはじめて、地景の上を、もやもやした微風がゆるぎだすと、窪地の霧は高く上《のぼ》り、さまざまな形に棚引きはじめるのだ。そして、その揺動の間に、チラホラ見え隠れして、底深い、淵のような黝《くろ》ずみが現われ出るのである。
その、巨大な竜骨のような影が、豆州の南端――印南岬《いなみさき》なのであった。
ところがそのおり、岬のはずれ――砂丘がまさに尽きなんとしているあたりで、ほの暗い影絵のようなものが蠢《うごめ》いていた。
それは、明けきらない薄明のなかで、妖《あや》しい夢幻のように見えた。ときとして、幾筋かの霧に隔てられると、その塊がこまごま切りさかれて、その片々が、またいちいち妖怪めいた異形《いぎょう》なもの
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