墓などは、夢にも及ばなくなったのです。
ところへ、貴方が拿捕《だほ》された『室戸丸』の船長から――それが現在私の夫ではございますが、貴方の遺品《かたみ》を贈るという旨を申しでてまいりました。それがそもそも、いまの生活に入る原因となったのでしたけど、私の悲運は、いまなお十七年後の今日になっても尽きようとはいたしません。
せっかく貴方の墓と思い、引き揚げた『|鷹の城《ハビヒツブルグ》』も、ついには私たちの生計の糧《かて》として用いねばならなくなりました。
私たちはこの上、安逸な生活を続けることが不可能になったのでございます。それで八住は、船底を改装して硝子《ガラス》張にしたのを、いよいよ海底の遊覧船に仕立てることにいたしました。
そうして再び、貴方のお船『|鷹の城《ハビヒツブルグ》』は動くことになりましたけど、私にとれば、貴方のお墓を作る機会が、これで永遠に失われてしまったことになります。
ですけど、貴方の幻だけはかたく胸に抱きしめて――あの気高くも運命《さだめ》はかなき海賊《コルサール》、いいえ、男爵海軍少佐テオバルト・フォン・エッセンは、死にさえも打ち捷《か》って、このような
前へ
次へ
全147ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング