光を彼女の顔に反射した。
 ウルリーケは爽やかな大気を大きく吸い込んだが、おそらく彼女の眼には、その燦《きらびや》かな光が錫色をした墓のように映じたことであろう。
「ところが、そのとき積み込んだ四つの魚雷からは、どうしたことか、功績《いさお》の証《あかし》が消え去ってしまったのです。
 その月の十九日タラント軍港を襲撃しての、『レオナルド・ダ・ヴィンチ』号の撃沈も、年を越えた五月二十六日コマンドルスキイ沖の合衆国巡洋艦『提督《アドミラル》デイウェイ』との戦闘も、このとおり艇内日誌にはちゃんと記されておりますが、その公表には、どうしたことか時日も違い、各自自爆のように記されてあるのです。
 それがドナウ聯邦派の利用するところとなって、ハプスブルグ家の光栄《はえ》を、貴方一人の影で覆い、卑怯者、逃亡者、反逆者と、ありとあらゆる汚名を着せられて、今度は共和国を守る、心にもない楯に変えられてしまったのです。
 それにつれて、同じ運命が私にも巡ってまいりました。
 わけても、貴方の生存説が、どこからともなく伝わってまいりましたおりのこととて、私たちの家には毎夜のように石が投げられ、むろん貴方のお
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