た自由の海、その上で結ぶ武人の浪漫主義《ロマンチシズム》の夢――。まあ貴方は、艇《ふね》を三|檣《しょう》の快走艇《ヨット》にお仕立てになって……、しかもそれには、『|鷹の城《ハビヒツブルク》』という古風な名前をおつけになったではございませんか。
 ああそれは、王立《ロイヤル》カリンティアン快走艇《ヨット》倶楽部《くらぶ》員としての、面目だったのでしょうか。いいえいいえ、私はけっしてそうとは信じません。
 きっと貴方は、最後の悲劇を詩の光輪で飾りたかったに違いありませんわ。そして、しめやかな通夜を他目《よそめ》に見て――俺は、生活と夢を一致させるために死んだのだ――とおっしゃりたかったに相違ありませんわ。
 そうして、その翌朝一九一六年四月十一日に、その日新しく生れ変った潜航艇『|鷹の城《ハビヒツブルク》』は、朝まだきの闇を潜《くぐ》り、トリエステをとうとう脱け出してしまったのでした。あの時すぐに始まった朝やけが、ちょうどこのようでございましたわねえ」
 その時、水平線がみるみる脹《ふく》れ上がって、美《うるわ》しい暁《あけぼの》の息吹が始まった。波は金色《こんじき》のうねりを立てて散
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