ト、みるみる「|鷹の城《ハビヒツブルグ》」は海底に沈みはじめた。
 いったん法水は、自分の神経が病的な昂揚状態に入ったかと疑った。が、それは夢ではなかった。彼は、硝子越しに立ちあがる水泡を見ながら、刻々死の底に沈みゆく自分を意識していた。
 そして、約二〇|米《メートル》を沈下したと思われた頃、艇は横様に揺らいで航行しはじめた。
 眼前の海底では、無数の斧魚《ハチェット・フィッシュ》が、暗い池のような水の中で光り、またその燐骨が、櫛のような形で透いて見えるのだが、こうして艇長フォン・エッセンの、烟《けむり》のような手に導かれてゆくうちに、彼はあちこちと自分の死の床を考えるようになった。ところが突然一つの考えが閃《ひらめ》いて、彼の心は明るく照し出された。
 すると、法水は食器棚の中から、取り出した水を鍵孔に注ぎ込み、その中に、氷と食塩で作った寒剤を加えたが、そうしてややしばらくするうちに、鍵金の外れる音がして扉《ドア》が開いた。
 それは、あの悪鬼の神謀――つまり、水が氷に変る際の、容積の膨脹を利用して、鍵金の尾錠《びじょう》を下から押し上げたからである。
 しかし、艙蓋《ハッチ》の下
前へ 次へ
全147ページ中142ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング