フと云えば、さしあたり艇長の油絵をさておいて、他に何がありましょうか。
 夫人《おくさん》、貴女は画像の唇を、筋なりに切りさいて、その間にこの手紙を差し込んで置いたのです。そして、あの美しい唇が膨れて、顔の階調が破壊されるのを、貴女は何よりも、怖れていたのでした」
 そうして語られる夢の蠱惑《こわく》は、ウルリーケの上で、しだいと強烈なものになっていったが、やがて、その悩ましさに耐えやらず叫んだ。
「貴方は、私が覆うていたものを、残らず剥ぎ取っておしまいになりましたわね。それでは、私をテオバルトに遇わせて下さいましな。法水さん、それにはいったい、何処へ参ったらよろしいのでしょうか」
「ともかく、この場所においで下さい。いま、すぐに連れてまいりましょう」
 と異様な言葉を残して、法水は隣室に去ったが、やがて連れて来たその人を見ると、二人はアッと叫んで棒立ちになってしまった――それが人もあろうに、ヴィデだったからである。
 しかし法水は、力を罩《こ》めて彼に云った。
「フォン・エッセン男爵、もう宜《い》い加減に、その黒眼鏡を除《はず》されたら、いかがですかな。貴方が、遭難の夜ヴィデを殺した
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