、やく貴女の真意を知ることができました。そして、今まではシュテッヘという名で怖れられていた悪鬼に、いよいよ改名の機が迫ったのです。ねえ夫人《おくさん》、現に、今も朝枝の頸を絞めたものは、シュテッヘではなく、フォン・エッセン艇長だったのです」
「何をおっしゃるんです」
とウルリーケは屹然《きっ》と法水を見据えたが、検事はその一言で、木偶《でく》のように硬くなってしまった――なぜなら、彼の云うのがもし真実だとすれば、あれほど厳然たる艇長の死が、覆《くつがえ》されねばならないからである。
法水は、躊《ためら》わず云いつづけた。
「ところで、いつぞやは、それと快走艇《ヨット》旗との符合に、僕らはさんざん悩まされたものです。しかし、それも今となると、偶然にしては、あまりに念入りな悪戯でしたね。貴女がそうして、ジーグフリードの弱点を暗示した理由には、ただ単に、そういっただけの意味しかなかったのです。つまり、艇長には、固有の発作があったので、たしか僕は、それが間歇《かんけつ》跛行《はこう》症だと思うのですが……」
その刹那、ウルリーケの顔が、ビリリと痙攣して、細巻が、華奢《きゃしゃ》な指の間か
前へ
次へ
全147ページ中132ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング