しめようとしたのであった。それがために、敵艦隊の集中するカッタロ湾に主力を向け、まさにアルバニアのヴァロナを出港せんばかりの気配にあった。
 しかし、墺太利《オーストリヤ》側としてもなんとかして、ヴェネチア、ラヴェンナ、アンコナ、タラント等に、勢力を置いている敵の封鎖を打ち破らねばならなかった。そうして、もし巧みに封鎖を脱することができれば、ヴェネチア、アンコナの両港を襲撃できるばかりではなく、ブリンデッシ、バリーなど無防禦港も、砲火の危険に曝《さら》されねばならない。さらに、一段|進捗《しんちょく》して、オトラント海峡の封鎖をみれば、もはや伊太利《イタリー》艦隊は完全な苦戦である。
 この二つの策戦は、当時万目の見るところだったのである。そうしていつかは、アドリアチック海の奥に、砲声を聴くであろう。トリエスト、ヴェネチアを結ぶ線上に砲火が散り、そこが両軍の死線となるであろう。と、戦機のせまる異常な圧迫感が、日々に刻々とたかまっていったのである。
 しかし、墺海軍は依然として、退嬰《たいえい》そのもののごとく自港の奥に潜んでいた。三隻単位を捨てて、五隻単位主義を採択したほどの墺海軍が、
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