「出したように雨の滴が落ちてくる。
 が、その時からシュテッヘは、すでに浮説中の人物ではなくなってしまった。あの黒々とした姿を、「|鷹の城《ハビヒツブルグ》」の中に現わした以上、彼の生存は、もはや否定し得べくもなかったのであろう。
 法水は莨《たばこ》を口から離して、静かに噛むような調子で云った。
「事によると、思い過ごしかもしれないがね。どうやら僕には、毒殺者のもう一人が、ヴィデではないかと思われるのだよ。いまもあの男は、艇内に秘密の扉《ドア》がある――などとほざいたんだがすぐに彼自身で、それを嘘だと告白しているのだ」
「嘘……あの俗物が、どうして冗談じゃないぜ」
 と検事は、いっこうに解《げ》せぬ面持だったが、法水は卓上に三つの記号を書いて相手を見た。
「だが問題というのは、あの男が気動を感じたという、貯蔵庫《ビム》にあるのだ。ところで、ヴィデの大言壮語の中に、ムーンの訓盲字という言葉があったっけね。その、ムーンの文字なんだよ。あの法式の欠点というのは、左から辿っていって次の行になると、今度は逆に、その下の右端から始めるにある。つまり、馴れないうちは、一つの字に二つの重複した記号を
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