Bれ衣《タルンカッペ》をつけたジーグフリード――この隠語一つの上にかかっているのだがね、いずれは防堤の上で、君にその姿を、御覧に入れる機会があるだろうよ」
 検事には、すでに言葉を発する気力がなかった。
 ただ彼は、ニーベルンゲン譚詩《リード》を繞《めぐ》って、二つの旋律が奏でられているような気がしていた。自分が弾《ひ》き出すと、いつも法水は、その上をいって、またその二つが絶えず絡み合うのだが、そうしていつ尽きるか涯しない迷路の中を、真転びひしめき行くように思われた。
 すると法水は、それまでにないひたむきな形相をして、言葉を次いだ。
「というのは、あるいは妄想かも知らんがね、実はある一つの、怖ろしい事実を知ったからなんだ。だから、一人の名を知れば、それでいいのだよ。ねえ支倉君、このモヤモヤした底知れない神秘――事実まったく迷濛たる事件じゃないか。ニーベルンゲン――暗い霧の子、|霧の衣《タルンカッペ》、ああ霧だ霧だよ、霧、霧、霧……」
 と法水の手が、頸《くび》の廻りをかいさぐると、握った指の間から、すうっと這い出るように海霧《ガス》が遁れて行くのだが、さてそうして開いた掌には烟《けむ
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