繧閧ノ瞞《だま》されたんだ。その|隠れ衣《タルンカッペ》たるや、とりもなおさず、あの日誌じゃないかね。八住はその影に隠れて、ウルリーケを招き寄せた。しかも、重要な部分を破り棄てて、彼女が再起しようとする望みをへし折ってしまった。それが判ったとしたら、いかにもブルンヒルトはジーグフリードを殺しかねないだろう」
「ああ君には、どこまで手数が掛るんだろうね」
 と芝居がかった嘆息をしたが、ふと瞳を開き切って、彼はきっと聴き耳を立てはじめた。
 それは、潮の轟き海鳥の叫び声に入り交って先刻《さっき》検事が耳にしたと同じく、きれぎれにどこか隣室の、遠い端《はず》れから伝わって来るのであるが、時として跫音《あしおと》のように聴えるとすぐに遠ざかって、微かな鋭い、余韻を引くこともあるけれど、それは無理強いに彼らを導くようでもあり、また妙に、口にするのを阻むような力を具えていた。
 しかし、まもなく法水は、新しい莨《たばこ》に火を点じて、口を開いた。
「ところで、末尾にある註を見ると、これにもラハマン教授が不審を述べているのだが、その|隠れ衣《タルンカッペ》は一度|氷島《イスランド》で使われたきり、そ
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