轣A滑り落ちた。
「で、最初にそれが、艇長の発作を死と誤らせました。なぜなら、元来その病は、上肢《て》にも下肢《あし》にも、どちらにも片側だけに起るもので、体温は死温に等しくなり、また、脈は血管硬化のために、触れても感じないというほど、微弱になってしまうのです。
艇長が、その発作を利用して、死を装ったことは、あの場合すこぶる賢明な策だったでしょうが、そうして跛行《びっこ》を引きつつ発射管室の方に歩んで行ったのを、僕らは、跛行者《びっこ》のシュテッヘと早合点してしまったのです。
またそうなると、あの暗黒世界の中に、しんしんと光が差し込んでくるのです。
ふと僕は、その後の艇長に、世にも奇異《ふしぎ》な生活を描き出すことができました。まったく結果だけを見たら、それが、あのまたとない一人三役――ねえ夫人《おくさん》、貴女はたぶん、それを御存知ないのでしょうね」
「いいえ、その病だけは、いかにも真実でも、……現在のテオバルトは違いますわ。あの維納《ウイン》の鉄仮面――ヘルマンスコーゲルの丘に幽閉されている囚人が、実はそうなのでございます」
とウルリーケは必死に叫んで、内心の秘密を吐き尽してしまったかに思われた。が、法水は優しげに首を振り、衣袋《ポケット》から封筒のようなものを取り出した。
その刹那、ウルリーケの全身からは、感覚がことごとく失せ切って、ただうっとりと、夢見るように法水の朗読を聴き入っていた――その内容というのは、はたして何であったろうか。
――そうして守衛長が私を案内して、いくつか数限りない望楼の階段を上って行きました。
それも、私が英人医師であるからでしょうが、やがて階段が尽きると、廊下の突き当りには美しい室《へや》がありました。
そして、その中には、見るも異風な姿をした人物が、一人ニョッキリと突っ立っているのでした。その人物は、フォールスタッフの道化面を冠っていて、身長は六|呎《フィート》以上、着衣はやはり、我々と異ならないものを、身につけておりました。
ところが、腰を見ると、そこには頑丈な鎖輪《ケッテンリング》が結びつけられてあるのです。
もちろん会話などは、片言《かたこと》一つ語るのを許されません。
それから、診察を始めたのでしたが、それには、バスチーユの鉄仮面を見た、マルソラン医師が憶い出されたように、やはり最初は、面の唇から突
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