スめきも、地上にありとあらゆるいっさいのものが、停止したように思われた。
 しかし、二人の面前では、その朝何事も起らなかったかのように見えたが、なお念のために、家族の寝間を覗き歩くうち、ふと朝枝の室の扉《ドア》が、開かれているのに気がついた。
 内部《なか》を覗くと、瞬間二人の心臓が凍りついてしまった。
 そこの寝台《ベッド》の上には、蝋色をした朝枝の身体が、呼吸もなく、長々と横たわっていたからである。

      三、海底の花園

 しかし、朝枝はまもなく蘇生したが、それは酷たらしくも、頸《くび》を絞められて、窒息していたのである。
 しかも、なお驚くべき事には、その扉《ドア》は、前夜の就寝の際に法水が鍵を下して、いまもその鍵は彼の手の中に固く握られているのであるが、それにもかかわらず、あの不思議な風は音もなく通り過ぎてしまった。
 そうして、目されていたヴィデが襲われず、朝枝が犠牲になった事は、法水の観念に一つの転機をもたらした。
 彼はウルリーケを招いて、さっそくに切り出したものがあった。
「またまた、菩提樹《リンデン》の葉と十字形《クロスレット》なんですが、僕は今になって、ようやく貴女の真意を知ることができました。そして、今まではシュテッヘという名で怖れられていた悪鬼に、いよいよ改名の機が迫ったのです。ねえ夫人《おくさん》、現に、今も朝枝の頸を絞めたものは、シュテッヘではなく、フォン・エッセン艇長だったのです」
「何をおっしゃるんです」
 とウルリーケは屹然《きっ》と法水を見据えたが、検事はその一言で、木偶《でく》のように硬くなってしまった――なぜなら、彼の云うのがもし真実だとすれば、あれほど厳然たる艇長の死が、覆《くつがえ》されねばならないからである。
 法水は、躊《ためら》わず云いつづけた。
「ところで、いつぞやは、それと快走艇《ヨット》旗との符合に、僕らはさんざん悩まされたものです。しかし、それも今となると、偶然にしては、あまりに念入りな悪戯でしたね。貴女がそうして、ジーグフリードの弱点を暗示した理由には、ただ単に、そういっただけの意味しかなかったのです。つまり、艇長には、固有の発作があったので、たしか僕は、それが間歇《かんけつ》跛行《はこう》症だと思うのですが……」
 その刹那、ウルリーケの顔が、ビリリと痙攣して、細巻が、華奢《きゃしゃ》な指の間か
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