汲ーられました。寝台《ベッド》の上から、左手が妙にグッタリとした形で垂れ下がっているので、触《さわ》ってみると、すでに脈は尽き、氷のように冷たくなっていたのです。
 それから始まった闇黒の中で、吾々は、眼が醒めると絶えず酒精《アルコール》を嚥《の》んで、うつらうつらと死に向って歩みはじめました。ところで、これは暗合かもしれませんけど、今度の事件が、それと同じなんですから、妙じゃありませんか。隣りにいる八住が、妙な音で咽喉《のど》を鳴らしたので、これはと思って手頸《てくび》を握りました。すると、それもやはり艇長と同じだったので、急いで夫人に急を告げたというわけなんです」
「いや、大変参考になりました」
 法水は犬射に軽く会釈したが、今度はヴィデを呼んで、別の問いを発した。
「ところで、八住が殺された際に、貴方だけは椅子に落着いていて、動かなかったそうでしたね」
「無論そうなりましょうとも」
 とヴィデは、黒眼鏡をガクンと揺すって、傷痕だらけの物凄い顔を、法水に向けた。
「僕は既《とう》から、この事件の起るのが予期されていたのです。なぜなら、遭難の夜には、吾々四人を前に、屍体の消失というありうべからざる現象が起ったではありませんか。そして、今日もまた、同じ艇内で同じ四人が集まった――とすると、そこに何事か起らずにはいないでしょう。しかしそのうち一人が欠けて、吾々はようやく正常な世界に戻ることができたのです……」
 となおもヴィデが、奇異《ふしぎ》な比喩めいた言葉を云いつづけようとした時、一人の私服が、詳細な屍体検案書を手に入って来た。
 ところが、それによって、この事件の謎がさらに深められるに至った。
 と云うのは、上行大動脈に達している創底《そうてい》を調べると、そこには毫《ごう》も、兇器の先で印された創痕《きずあと》がないばかりでなく、かえってその血管を、押し潰していることが判ったからだ。
 すなわち、瞬間に血行を止めた即死の原因は、それで判るにしても、だいたい頭の円い乳棒のようなもので、皮膚を刺し貫く――というような、神業《かみわざ》めいた兇器が、はたして現実あり得るものだろうか。
 そうして、しばらく二人は、顔を見合わせて黙っていたが、ヴィデはその後も、不可解な言葉を吐きつづけた。
「ねえ法水さん、実は艇内に一個所、秘密の出入|扉《ドア》があるのですよ。しかも、
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