サれはけっして、肉の眼では見えないのですが、僕は何処にあるか、ようく知っているのです。今日も事件の際に、そこから伝わってくる、気動があったのを覚えています。なにしろムーンの訓盲《くんもう》文字に、十七年間も馴らされているんですからね。とうの昔、失われた眼を、皮膚の上に取り戻していますよ」
と周囲《ぐるり》を嘲るように云い放ったとき、検事はその言葉の魅力に、思わずも引き入れられてしまった。
「というのは、いったい何処からなんです?」
「それが、貯蔵庫《ビム》の方角からでした」
としばらく指を左右に動かしていたが、ヴィデはやがてムッツリと答えた。
が、その貯蔵庫《ビム》というのは、事件のおり夫人がいた発射管室の壁際にあるもので、ヴィデはかくも傲然として、犯人にウルリーケを指摘したのであった。
一座はその瞬間、白けたような沈黙に落ちたが、やがて法水の問いに、石割苗太郎が答えはじめた。
「艇長の屍体を発見したのが、ちょうど夜半《よなか》の二時でしたが、それから四人は、艙蓋《ハッチ》の下で眠るともなく横になっておりました。すると、そのうちに、士官室から前部発射管室の方へ行く、異様な跫音《あしおと》が聴えてきたのです。それは、片手を壁に突きながら、一本の足で歩いているようで……」
と云いかけたときに、一同は冷たい鉄に触れたような思いがした。
なぜなら、その跫音は、明白にシュテッヘであって、失踪当時彼は右足を挫《くじ》いていたからである。
石割もそう云いながら、わなわな顫《ふる》えだして、彼は法水の声する方《かた》に、両手で卓子《テーブル》を捜りながら、躄《いざ》り寄って行くのだった。
「それが、今日耳にしたところでは、シュテッヘという、姿の見えない薄気味悪い男だそうで……。それから、しばらく居眠ったかと思うと、いまその男の行った方角から、今度は普通の足取りで、コトコト戻って来るのを聴きましたが。……それも現《うつつ》の間《ま》で、やがて扉《ドア》が開いて誰やら入って来たのも、暗黒の中で、それと見定めることは出来ませんでした。しかしその時、時計が五時を打って、それだけは、妙に明瞭《はっきり》と覚えていますが……ああ、どうか今夜だけは、貴方がたといっしょに過させていただけませんか……」
そうして、盲人の訊問は終ったが、岬の夜はだんだんと更《ふ》けていって、おりおり思
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