ホかり突き出てしまって、それを見るとほんとうに、ひとしお家畜《けもの》めいて憐《いじ》らしく思われました」
とその声が、ふと杜絶《とぎ》れたかと思うと、彼女は瞳を片寄せて、耳を傾《か》しげるような所作《しぐさ》を始めた。
「ホラ、お聴きでございましょう。向うの室《へや》から、コトリコトリと聴えてくる音《ね》が……。あれがいま申し上げた紡車なのです。でもまあ、こんな時、誰が廻しているのでしょうねえ」
朝枝の不審は、それ以上の動作には出なかったけれども、彼女が去った後の室内は、沈黙の中で凝《じっ》と虚空から見つめているものがある気がして、なにか由々しい怖《おぞ》ましげな力が、ぞくぞくと身の上に襲いかかってくるのを感じた。
それまではいつか笑い声のうちに消え去るかと、朧《おぼ》ろな望みに耽っていたもの――それがいまや、吹きしく嵐と化したのであったが、二人はそこの閾《しきい》まで来たとき、ハッと打ち据えられたように顎を竦《すく》めた。
それは、コトリと一つ、微《かす》かに響いたかと思われると、その長い余韻の上を重なるようにして、背後にある室《へや》から、盲人《めくら》の話声が聴えるのだったが、もちろん怖れというのはそれではなかった。その室《へや》には、前方に色の褪せた窓掛が、ダラリと垂れているだけで、その蔭の窓にも隅の壁炉にも、それぞれ掛金や畳扉《たたみど》が下りてはいるが、壁炉の前にある紡車を見ると、それには糸の巻き外れたものが幾筋となくあって、明らかに触れた人手があったのを証拠立てていた。
誰ひとり入ることのできないこの室《へや》で、紡車が巻かれてあった――まさにその変異は、最初法水が防堤の上で想像した一人の、眼に触れた最初の断片なのである。
まして、夜な夜な八住が外出していたということは、またその渦を狭めるものであって、結局《とどのつまり》、すべてが「|鷹の城《ハビヒツブルグ》」に集注されてしまうのだが、そうして、二人はこの短時間のうちに、全身の胆汁《たんじゅう》を絞り尽したと思われるほどの、疲労を覚えたのであった。
やがて、旧《もと》の室《へや》に戻ると、そこにはウルリーケが、皮肉そうな微笑を湛えて二人を待っていた。
二、鉄仮面の舌
ウルリーケの顔は、血を薄めたような灯影の中で、妙に狷介《けんかい》そうな、鋭いものに見えた。が、二人が
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