オた顔が現われた。
彼女が手にした洋灯《ランプ》を、卓子《テーブル》の上に置くのにも、その痩せた節高い指が、痛々しく努力するのを見て、法水は憐憫の情で胸が一杯になった。
「気がつきませんで……。またなにかお訊ねになりたいことが、あるかとも思いまして。それより私、申し上げたいことがございますの」
「と云うと……」
「それは、父のことなんですけど、とうに母の口からお聴きかもしれませんが、ここ十四、五日の間というものは、きまって暁《あ》け方になると、五時を跨いで戸外に出るのです。御存知のとおりの不自由な身で、それがどうあっても、行かねばならぬものと見えまして、戻って来ると、それは息をきらして、暑苦しそうに頬を赤くしているのですわ。それでも、私に訊ねられますと、妙にドギマギして、なあに、入江の曲り角まで行って来たのさ――と答えるのでしたが、また妙に、その不思議な行動が一日も欠かしませず、実は、今朝がたまで続いていたのです。その入江の角というのを、御存知でいらっしゃいますか。裏の防堤がずうと伸びて、岬を少し縫ったところで終っているのですが、その曲ろうとする角が、そうなのでございます。その崖下には、今月の一日から『|鷹の城《ハビヒツブルグ》』がつながれているのですわ」
「ふむ、『|鷹の城《ハビヒツブルグ》……』
検事は莨《たばこ》の端をグイと噛み切ったほどに、驚かされてしまった。
「すると、その辺のことを、正確に記憶していますか。お父さんが、そういう行動を始めたのは、何日《いつ》ごろだったか」
「でも、それ以前はどうであったか存じませんが、とにかく臥《ふ》せりながら気づきましたのは、さあ半月ほどまえ、今月の十日からでございます。つまり、『|鷹の城《ハビヒツブルグ》』が来てから十日の後、また三人の盲人《めくら》の方は、その二日まえ――五月二十九日にここへ参りましたのです」
と朝枝は云って、なにかときめいたように躊躇《ちゅうちょ》していたが、やがて胸を張って、口にしたものがあった。
「それから、もう一つ申し上げたいのは、父のそうした行動《ふるまい》が始まった頃から、奇妙に母の態度が変って、荒々しくなってきたことです。ですから、一日中母の眼を避けて、父は紡車《つむぎぐるま》に獅噛《しが》みついていたのでしたわ。そのうえ、上の入歯を紛《な》くしたせいもあったでしょうか、いやに下唇
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