タに着くと、それを待ち兼ねたように切りだした。
「また、朝枝が何か喋《しゃべ》っていたようでしたわね。私、あの子が先刻《さっき》のアマリリスといい、なぜ肉親の母親を、そんなにまで憎しみたいのか理由が判りませんの。ですけど、八住が夜な夜な、きまって暁け方になると、『|鷹の城《ハビヒツブルグ》』のある岬の角に、行くことだけは事実でございます。どうして、不自由な身体を押してまでも、八住はそうしなくてはならなかったのでしょうか。そこへ貴方は、毎夜防堤に来る男がある――とおっしゃいます。あああの夢が、だんだんと濃くなるではございませんか」
「なるほど――しかし、他人の夢にはおかまいなさらず、御自分の悪夢の方を、おっしゃって下さい。時偶《ときたま》は、トリエステの血のような夢を御覧になるでしょうな」
と法水は、異様なものを仄《ほの》めかしたけれど、ウルリーケの顔は咄嗟《とっさ》に硬くなり、雲のような暈《ぼう》としたものが舞い下りてきた。
「悪夢……。すると貴方は、シュテッヘのことをおっしゃるんですのね。なるほど、あの方が失踪したおりには、テオバルトも一応は疑われました。現に維納《ウイン》の人は、そういった迷信的な解釈をいまだ棄てずにおります。いつまでもテオバルトのことを、『さまよえる和蘭《オランダ》人』のように考えていて、シュテッヘという悪魔を冒涜したために、七つの海を漂浪《さまよ》わねばならなくなったと信じているのです。でもまあ、あのまたとない友情の間に、どうしてそんなことが……いいえ判りましたわ。――貴方もやはり、シュテッヘの失踪について、テオバルトを疑っていらっしゃるのです。ようございますわ。もし、飽くまでもそういう夢をお捨てにならないのでしたら、一つ防堤に来る男というのを、シュテッヘに証明していただきましょうか」
「ところが夫人《おくさん》」
と突然、法水に凄愴な気力が漲《みなぎ》って、
「ところがその、和蘭人を呪縛にくくりつけた悪魔――それは、とおの昔に死にました。いや、率直に云いましょう。『|鷹の城《ハビヒツブルグ》』遭難の夜艇内で死んだのは、実を云うと艇長ではなく、その悪魔だったのです。そして、一方の和蘭人は、とうの昔トリエステで消え失せていて、それからも『|鷹の城《ハビヒツブルグ》』を離れず、不思議な生存を続けておりました。どうでしょう夫人《おくさん》、貴女
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