繧閧ノ瞞《だま》されたんだ。その|隠れ衣《タルンカッペ》たるや、とりもなおさず、あの日誌じゃないかね。八住はその影に隠れて、ウルリーケを招き寄せた。しかも、重要な部分を破り棄てて、彼女が再起しようとする望みをへし折ってしまった。それが判ったとしたら、いかにもブルンヒルトはジーグフリードを殺しかねないだろう」
「ああ君には、どこまで手数が掛るんだろうね」
と芝居がかった嘆息をしたが、ふと瞳を開き切って、彼はきっと聴き耳を立てはじめた。
それは、潮の轟き海鳥の叫び声に入り交って先刻《さっき》検事が耳にしたと同じく、きれぎれにどこか隣室の、遠い端《はず》れから伝わって来るのであるが、時として跫音《あしおと》のように聴えるとすぐに遠ざかって、微かな鋭い、余韻を引くこともあるけれど、それは無理強いに彼らを導くようでもあり、また妙に、口にするのを阻むような力を具えていた。
しかし、まもなく法水は、新しい莨《たばこ》に火を点じて、口を開いた。
「ところで、末尾にある註を見ると、これにもラハマン教授が不審を述べているのだが、その|隠れ衣《タルンカッペ》は一度|氷島《イスランド》で使われたきり、その後は杳《よう》として姿を消してしまったのだ。支倉君、氷島《イスランド》なんだよ――しかもその時は、ブルンヒルトの面前で行われ、また、それが動機となって、女王の不思議な運命悲劇が始まったのだ。ところが、この今様ニーベルンゲン譚詩《リード》になると、その氷島というのが何処あろうトリエステなんだよ」
「なに、トリエステ……」
「そうなんだよ。そこで支倉君、トリエステで|隠れ衣《タルンカッペ》を冠った、ジーグフリードというと、それはいったい、誰のことなんだろうね」
「すると君は、シュテッヘ大尉のことを云うのか。あの男は生きながら、『|鷹の城《ハビヒツブルグ》』の中で消え失せてしまったのだ……」
「いやいや、その名はまだ、口にする時機じゃないがね。しかし、いま判っているのは、ジーグフリードがその|隠れ衣《タルンカッペ》を、自分で冠ったのではなく、ブルンヒルトに被《かぶ》せられた――という一事なんだ。そして、それ以来地上から姿を消して、とうてい理法では信ぜられぬ生存を続けているのだが、ときおり海上に姿を現わして、いまなお七つの海を漂浪《さまよ》っているのだ。ねえ支倉君、あの神秘の扉を開く鍵は、|
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