処置に出たのだろうと、自分で自分が判らないので御座いますのよ。全くそれが、通り魔とでも申すのでしょうか。それとも、あの観覧車に不思議な魔力があって、それが、私をしっかと捉《と》らまえて放さなかったのかも知れません。けれども、あの観覧車から釘抜部屋の秘密をそれと知った時に、私はこの上お祖母さまをお苦しめ申すのは不憫と思い、ああした所業に出たので御座います。ねえ光子さん、安死術――そうでは御座いませんでしょうか。どんなに私をお憎しみの神様があっても、これだけはお許し下さるでしょうね。それに、この恐ろしい因果噺はどうで御座いましょう。お祖母さまは、御自身お仕組みになった黒笄のからくりでもって、果ては末に、御自分の胸を刺さなければならなかったのですから。サア、明日は観覧車に乗って、あの紅色に塗った一等車の中に入ってみましょう。そしてあの笄の紅い頭の中で、お祖母さまの事も、小式部さんの事も、何もかも一切合財を忘れてしまいましょうよ」
[#地付き](一九三五年一月号)



底本:「「ぷろふいる」傑作選 幻の探偵雑誌1」ミステリー文学資料館・編、光文社文庫、光文社
   2000(平成12)年3月
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