ていたのである。然し、それから一週間程経って、家婢が食事を運んで行くと、意外にもそこで、尾彦楼お筆の絶命している姿が、発見されたのであった。その死因は、明白な心臓麻痺であり、お筆は永い業の生涯を、慌だしくもまるで風のように去ってしまった。
「どうして先生、あの日には、お祖母さまが辛《き》っと御安心なさったのでしょう。それだのに、何故ああも急にお没くなりになったのでしょうか」とはや五七日も過ぎ、白木の位牌が朱塗の豪奢なものに変えられた日の事であった。杉江と居並んで、仏壇の中を覗き込んでいるうちに、お光はそう言ってから、金ぴかの大姉号を眺め始めた。
「それは、斯《こ》う云う訳なので御座いますよ。貴女はまだ、その道理がお解けになる年齢《としごろ》では御座いませんが、そう云う疑念《うたがい》が貴方の生長《そだち》を妨げてはと思いますので、ここで、思い切ってお話しする事に致しましょう」
 と杉江は、今までにない厳粛な態度になって、お光を自分の胸に摺り寄せた。
「実を申しますと、お祖母さまは、私があの世にお導きしたので御座います。と申すよりも、あの大観覧車に殺されたと云った方が――いいえ、その原因
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