分もたげ気味にしている目窪の中には、異様に輝いている点が一つあった。そして、そこから放たれている光りの箭が、遠く西の空に飛んでいて、寛永寺の森から半身を高く現し、その梢を二股かけて踏んまえている大観覧車に――はっしと突き刺っているのだ。

     三、老遊女観覧車を買い切ること
        並びにその観覧車逆立ちのこと

 仮りにもし、それが画中の風物であるにしても、遠見の大観覧車と云う開花模様はともかくとして、その点晴に持って来たのが、ものもあろうに金糸銀糸の角眩ゆい襠掛――しかもそれには、老いと皺とではや人の世からは打ち※[#「てへん+去」、369−2]がれている老遊女が、くるまり眼をむいているのであるから、その奇絶な取り合せは、容易に判じ了せるものではなかった。のみならず、遠く西空の観覧車に、お筆が狂わんばかりの凝視を放っていると云う事は、また怖れとも嗤《わら》いともつかぬ、異様なものだった。けれども、そうしているお筆を眺めているうちには、何時となく、彼女が人間の限界を超絶しているような存在に考えられて来て、そこから満ち溢れて来る、不思議な力に圧倒されてしまうのだった。が、
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