た盲人を死線から救い上げたのだが、その時推理の根源をなしたものが、実に平凡きわまる、それでいて誰しもうっかり見逃してしまう点にあったのだ。それは鉄芯の温度なんだよ、元来蝋燭の芯は穴の左右いずれかに偏在しているものなのだから、ああ云う太い鉄芯で際まで燃えてくると、それから先は鉄芯に隔てられて、炎が十分反対側に届かなくなる。それで、蝋の燃焼が不均衡になって、急角度の傾斜が現われて来るのだ。つまり、一方は芯だけになっても、片側には幾分でも蝋が残っていなければならない。だが、そのまま燃え切らせてしまえば、鉄芯に熱が加わって灼熱して来るから、芯が落ちるまでには反対側の蝋もズルズル熔け落ちてしまうけれども……、芯だけになった時いったん消してその後時間を隔てて灯《とも》したとすると、あいにく今度は鉄芯が冷却している。だから、反対側の蝋も、ホンの僅かな間だけ燃える芯の下方に当る部分のみが熔けて、上端の部分はそのままの形で残るか、少なくとも蝋膜ぐらいは存在していなければならない。ところが、あの手燭には、鉄芯が真黒に燻《いぶ》っているだけで、蝋は完全に燃焼してしまってる。するとそれが、ホンのわずかでも蝋燭
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