芯だけになったのに、吝嗇《りんしょく》なラザレフが点《とも》したとすると、芯の下方が燃えることになるから、下の蝋が熔けるにつれて、横倒しに押し流され炎が直立しなくなってしまうぜ。」と凱歌を挙げたが、彼はチラと臆病そうな流眄《ながしめ》を馳せて、
「時に法水君、君の意見は?」とたずねた。
「サア、僕の意見ってただ」しかし彼の眼光には、決定したものの鋭さがあった。「困ったことには、鐘声の地位を主役に進めるだけのものなんだが、マア我慢して貰って、君達の推論を訂正する労だけも、買って貰うことにしよう。」と、まず検事に向い、「最初に君の自殺説だがそれが謬論だと云うことは、死体の最後の呼吸が証明している。知っての通り、気管を見事に切断しているのだが、犯人はすぐその場で短剣を引き抜かず、しばらく刺し込んだまま放置しておいたのだ[#「犯人はすぐその場で短剣を引き抜かず、しばらく刺し込んだまま放置しておいたのだ」に傍点]――その理由は後で話すがねえ。それで、気道がペタンと閉塞されるので、ちょうど絞殺のような具合になってしまった。無論解剖によらなければ、競合《せりあい》状態になっている二つのどっちが最終の
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