当眼にとどまる程度の損傷が現われるだろう! おそらく一町以上の距離は容易に渡り切れぬだろうと思うね。そうなると、人並優れた腕力とそれに反比例する小児程度の体重[#「人並優れた腕力とそれに反比例する小児程度の体重」に傍点]――と云う至極難条件が、ルキーンによってやすやすと解決されるのだよ。しかも、綱に織物の繊維が残っていないと云うことが、かえって防水服で固めたルキーンを、逆説的に証明することになるだろう。」
検事は呆《あき》れたように熊城を瞶《みつ》めていたが、
「そんなことなら、わざわざ君に聴くまでもないぜ。楽な解釈に有頂天になってしまって、君は鐘の機械装置を忘れてしまったのだ。」
しかし、その時はまだ熊城の解釈以上に、鐘声の怪を実務的に説明するものがなかったのだ。
「マア、聴き給え。いま綱の振動で鐘が鳴ったと云ったけれども、それは、あの不可解な鳴り方をした時を指して云うのではない。それ以前にあったのだ。つまり、時刻はずれに鐘の鳴ったのが二度あったのだよ。その二度目の時が君達始め姉妹の耳に入ったので、最初脱出の時のは、おそらく聴えぬ程度の弱音だったに違いない。なぜなら、ルキーン程度
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