力を助けるのだ。」
「ウン、ところが熊城君、僕がズバリと云い当てたばかりに思いがけない収穫があったのだよ。」と法水の顔に紅潮《あかみ》が差して来た。「あの時ジナイーダの外見《みかけ》はすこぶる冷静だったけれども、内心ではそれが異常な衝動《ショック》だったのだ。もっともわれわれの心理には、ちょっとした恐怖を覚えると、ごくつまらないところで嘘を吐《つ》いてしまうものだが、とにかくどうであるにしろ、あの天使のような女の陳述の中に、一つ虚構の事実があったのだ。ねえ熊城君、ジナイーダはたしか自分のいた修道院がトラヴィスト派だと云ったね。しかし、真実《ほんとう》は、刷新カルメル教会派なんだぜ。」
「カルメル教会派って?」
「例の裸足《はだし》の尼僧団のことさ。裸足の上に、夏冬ともセルの服一枚で過し、板の上に眠るばかりか、絶対菜食で、昔は一年のうち八ヶ月は断食すると云う、驚くべき苦行が教則だったとか云う話だがねえ。」
「だが、どうしてそれが判ったね?」
「と云うのは、僕がさっき、自分の心霊を一つの花園と考え、そこに主が歩みたもうと想像するこそ楽しからずや[#「自分の心霊を一つの花園と考え、そこに主が
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