は、今度は階段の方を説明して下さい。」
 それから。調査が階段の外壁にある回転窓に移ると、熊城は、窓硝子の中央に太い朱線が横に一本引かれてあるのを見て、
「なるほど、この壁燈が点け放しになっていたのをルキーンは不審がったと云うけれども、その理由はたしかこの朱線にある。しかし、これがどうして外から見えねばならなかったのか?」
 法水は窓枠の埃《ほこり》をスイと撫でて、
「半分しか開かない!、 金具が錆びついているところを見ると、永らく開かれなかったと見えるな。それからイリヤさん、窓の下に引き込んである動力線らしいのは?」
 その太い二本の電線は、正門の側にある電柱まで一直線に伸びていて、その上には氷結した雪が載っていない。イリヤはその周囲全部に渉って説明を始めた。
「ええ、パイプ風琴《オルガン》があった頃の動力線なんです。それから、窓の上に三尺ばかりの鉄管が、電線と並行に突き出ていますでしょう。以前は式日になると、あれにロマノフ旗を結びつけたそうです。また、鉄管に絡んでいる裸線は、私のラジオのアンテナですわ。いつだったか、陸軍飛行機の報告筒が鐘楼の屋根に落ちたことがありまして、その時塔に
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