扉の外に飛び出して、何度も鐘を振り仰いでいたが、それを見て、拡大鏡を振り廻していた一人の刑事が側に寄って来た。
「法水先生、鐘ですか? しかしあの大鐘は今も上って見たところですが、二三人かかって手で押したくらいでは、歯車があるのでビクともしませんぜ。また、内部の振錘《ふりこ》を手で動かしたにしたところで、音だけは妙に詰ったような鳴り方をしますが、肝腎《かんじん》の鐘が動かないのですから、振動を上の小鐘に伝えることが出来ないのです。」
「なるほど、すると、鐘を傾けるのは、振綱以外にないと云うのだね。いや有難う。」
法水はふたたび姉妹の室に戻ったが、こうして鐘の性能いっさいを知り尽してしまうと、もうこの上、鐘声の不思議を科学的に考察する余地はないと思った。第一それより、なにゆえ鳴らされねばならなかったか?――が判らなくなってしまった。それがもし犯人だとすれば、どうして自分自身の存在を曝《さら》け出すような危険を冒してまで、あえてする必要があったのだろうか?(それに安易《イージー》な解釈法を当てると、鐘が鳴った時、下の鐘楼には死体のほか誰一人いなかったと云う結論になってしまうのだ。)しかし
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