った三という数字が、この場合三字を控除せよ――という意味ではないかと思いました。そして、とつおいつの挙句、モンドの三字を除いて、さて残ったラとルとで、今度はラを左へ横倒しにしてみると、丁度その二つが、紙に書いたルの字を裏表から眺めた形になりましょう。これこそ、死蝋室の扉にある。帝釈天の硝子画ではないでしょうか。また鋤《スペード》の女王《クイン》は、そのどう向けても同じ形のところから、井という字の暗示ではないかと考えたのです。それで、硝子画の帝釈が指差している床下を探ると、果してそこに、自然の縦孔があって、コスター聖書はその中から発見されました」
 そういって鹿子に向き直り、法水は莞爾《にっこり》と微笑んだ。
「然し、その所有は明らかに貴女へ帰すべきです」
 法水の衣袋から、時価一千万円に価する稀覯《きこう》本が取り出される刹那は、恐らく歴史的な瞬間でもあったし、また驚異と羨望とで、息吐く者もなかったであろう。が取り出されたものを見ると、一同はアッと叫んだ。
 なんとそれが、聖書は愚か、似てもつかぬ胎児のような形をした、灰色の扁平《ひらべた》いものに過ぎなかったのだ。
 鹿子は怒りを罩め
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