いた機《はず》みに蝶形から抜けて、その後一時間の間に、鳩時計の螺旋の中に納められてしまったのですよ」
「では、やはり河竹が犯人だったのか。それにしても、一体どう云う動機で……」
と同じような意味を、真積博士と杏丸医学士とが、眼の中で囁き続けているうちにも、法水は舌を休めなかった。
「で、その動機をいうと、自分に兼常博士を殺させたものが、途方もない正体を現わしたからで、それはいうまでもなく、コスター聖書でした。河竹は、漸くその在所《ありか》を知ることが出来たので、強奪を企んで兼常博士を殺したのですが、不思議なことにコスター聖書は、自身を河竹に奪わせなかったのです」
「おお」
鹿子が思わず狂的な偏執を現わし、卓子の端をギュッと掴んだ。
「如何にも、河竹に続いて、私はコスター聖書の秘蔵場所を突き止めました。それには、無論あの骨牌《カード》に示された、博士の謎を解いたからですが、あれは非常に他愛なく、こんな具合に解けて行くのですよ」
法水は、始めて莨《たばこ》を取り出し、悠々暗号の解読を始めた。
「大体、モルランド足というのが八本|趾《ゆび》で、普通より三本多いのですから、その剰《あま》
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