緑青等の古代岩絵具の色調が、見事な色素定着法で現わされている、二人の冥界の獄卒が突っ立っていた。
 右はアディソン病患者の青銅鬼で、緑青色の単衣《ひとえ》を纏い、これはやや悲痛な相貌であるが、左手の赤衣を着た醜怪な結節癩は、その松果《まつかさ》形をした瘡蓋が、殆んど鉱物化していて鋳金としか思われず、それが山嶽のように重なり合って眼も口も塞ぎ、おまけに、その雲を突かんばかりの巨人が、金剛力士さながらに怒張した四肢を張って、口を引ん歪め、半ば虚空を睥睨《へいげい》しているのだ。
 そして、その二人に挟まって蹲《しゃが》んでいるのが、頭髪を中央から振り分けて、宝髻形《ほうきがた》に結んでいる、裸体の番匠幹枝だった。肋骨の肉が落ち窪み、四肢が透明な琥珀色に痩せ枯れた白痴の佳人は、直径二尺に余る太鼓腹を抱えて、今にもそれが、ぴくぴく脈打ち出しそうだった。
 然し法水は、それに一瞥を呉れたのみで、すぐ死蝋と窓との間にある、卓子《テーブル》の側に歩んで行った。
 幹枝の腹から出た腹水と、膜嚢を容れた大きな硝子盤が、その上に載っていて、褐色をした濁った液体の中に、二十余り鼈《すっぽん》の卵みたいに、ブ
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