人の気配を悟ることができた。
「そもじ二人は、小さいながら、このラショワ島が一国であるのを忘れたとみえますのう。総じて貴人というものは、上淫《じょういん》を嗜《たしな》むのです。そなた二人は、虹《にじ》とだに雲の上にかける思いと――いう、恋歌を御存じか。そのとおり、王侯の妃《きさき》さえも、犯したいと思うのが性情《ならい》なのじゃ。そのゆえ、遊女には上※[#「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1−91−26]《じょうろう》風の粧《よそお》いをさせて、太夫《だゆう》様、此君《このきみ》様などともいい、客よりも上座にすえるのです。それも、一つには、客としての見識だろうと思いますがのう。くれぐれも、女子の情けを、ひどう奪ってはなりませぬぞ。それで、今日この今から、フローラを太夫姿にして、私は、意地と振り(客と一つ寝を拒む権利)を与えようと思うのです。相手の意に任せながら、その牆《かき》を越えてこそ、そもじ二人は、この島の主といえるのじゃ」
昨夜に続いて、再びこの島にも、聞くも不思議な世界が、ひらかれいこうとしている。
それは、横蔵、慈悲太郎の瞳《ひとみ》の底で、ひそかに燃え上がった、情
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