したのでございます。
それは、白夜がはじまろうとする白っぽい光の中で、島の頂きを覆う金色の輪が、暈《かさ》のように広がり縮んでいて、それは透かし絵の、影像のように見られたのでした。しかし、その冷たい湿っぽい感覚が、私の肺臓にずうんとしみわたりました。逃れるのはいま――私は、鹹《から》っぽい両|掌《て》に汗を浮かべて、病を装おうと決心しました。それからが、こうして、手厚いおもてなしをいただく仕儀にございます。どうかいつまでも、下碑《はしため》になりと、御手元にお置きくださいませ」
永々と続いた、フローラの物語は終わった。
ちょうどそれは、鏡に吹きかけた息のようなものであった。彼女をおびやかした、忌まわしい悪夢の世界は、すべて何もかも、海中に没し去ってしまったのである。
そうしてフローラは、新しい生活を踏み出すことになった。
しかし、ベーリングをはじめ、彼女さえも遠望したという黄金郷《エルドラドー》の所在は、ついに、この島のどこにあるのか明らかではなかった。それは、フローラという緑毛の処女が、そもそも神秘的な存在であるように、黄金郷という名を、聴いただけでさえ、三人は竜巻《たつま
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