、思わず弾《は》ね上げられたような、声を立てた。
「さようでございます。最初は、二、三日下痢模様が続きますと、骨も髄も抜け果てたようになって、次第に皮膚の色が透き通ってまいるのです。それで、病人たちは、死の近きを知るころになると、きまって船底近い、臥床《ふしど》から這《は》い出していくのです。そして、狂気のようになって、甲板へ出ようとしますけれど、そこには岩のような靴《くつ》と、ヒューヒューうなる鞭《むち》が待ち構えているのでした。でもう、しまいには死の手に押さえつけられてしまって、わずかに首と、弱った頭をもたげるにすぎなくなってしまうのです。
ところが、それから二度三度と現われた父の手は、いつも決まって、船底に続く鉄梯子《てつばしご》の方角のほうから現われてくるのでした。それからというもの私は、もしやしたら父と悪疫《えやみ》との間に、何か不思議なつながりがあるのではないか――ないかないかと、それのみをただ執念《しゅうね》く考えつめるようになりました。ですから、その軍船の中には、じりじり燃え広がっていく、恐ろしい悪疫と……。それから、野鳥のように子を犯そうとする、煙のような悪霊とが潜
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