な爆笑を立てた。
「これは奥方様、お戯れにも、ほどがあるというもの。なるほど、靴を脱いでしまえば、片足には音がないのですから、さような御推測も、無理とは思いませぬが、しかし、黄金郷《エルドラドー》の探検を、共にと誓った御両所を、なんで害《あや》めましょうぞ。神も御照覧あれ、手厚いおもてなしに感謝すればとて、敵対の意志など、毫《ごう》も私にはござりませぬのじゃ」
と、はだけたシャツの下から、取り出した十字架《クルス》に接吻《せっぷん》するのだった。
しかし、紅琴は、凝視を休めず言い続けた。
「ええ、そのような世迷いごとに、聴く耳は持たぬわ。この島の法《のり》は、とりも直さず妾自身なのじゃ。とくと真実《まこと》を打ち明けて、来世を願うのが、為《ため》であろうぞ」
すると、グレプニツキーは、相手の顔をじっとみつめていたが、見る見る絶望の表情ものすごく、胸をかきむしって、咆《ほ》え哮《た》けるような声を出した。
「馬鹿な、短慮にはやって、せっかく手に入ろうとする、黄金郷《エルドラドー》を失おうとする大痴者《おおたわけもの》めが。したが奥方、とくと胸に手を置いて、もう一度勘考したほうが、お為でありましょうぞ」
「ホホホホホ、なんと黄金郷とお言いやるのか……」
女丈夫は、蒼白い頬をキュッと引きしめて、嗤《わら》い返した。
「その所在なら、そもじは、不要じゃと言いたいがのう。妾はそうと知ればこそ、このラショワ島に砦《とりで》を築いたのじゃ」
と、何やら合図めいた眼配せをしたかと思うと、もがいて投げつけられたグレプニツキーの上で、幾つとない銀色の光が入り交じった。
彼は、しばらく手足をばたばたとさせ、狂わしげにもだえていたが、やがて瞼《まぶた》が重たく垂れ呻《うめ》きの声が途絶えると、そのまま硬く動かなくなってしまった。
紅琴は、しばらく眼を伏せて、グレプニツキーの死体を、気抜けしたように見つめていた。白っぽい、どんよりとした光の中で、海鳥が狂おしげに鳴き叫んでいたが、やがて、血が塩水にまじって沖に引き去られてしまうと、浜辺はふたたび旧の静寂にもどった。
そこへ、フローラは不審気な顔で、紅琴の耳に口を寄せた。
「でも、ほんとうでしょうか、奥方様。ほんとうに、黄金郷《エルドラドー》の所在を御存じなのでございますか」
「知らないで、なんとしようぞ。フローラ、そもじに、そ
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