ねばならなかったものか、考えてみ給え」
 そうして、黙示図の余白に、鉛筆で※[#右肩下がりのナイフの刀身のような形(fig1317_05.png)、85−13]の形を書いてから、
「熊城君、これが※[#2分の1、1−9−20]を表わす上古埃及《コプチック》の分数数字だとしたら、僕の想像もまんざら妄覚ばかりじゃあるまいね」と簡勁《かんけい》に結んで、それから鎮子に云った。「勿論、死語に現われた寓意的な形などというものは、いつか訂正される機会がないとも限りません。けれども、ともかくそれまでは、この図から犯人を算出することだけは、避けたいと思うのです」
 その間、鎮子は懶気《ものうげ》に宙を瞶《みつ》めていたが、彼女の眼には、真理を追求しようという激しい熱情が燃えさかっていた。そして、法水の澄みきった美しい思惟の世界とは異なって、物々しい陰影に富んだ質量的なものをぐいぐい積み重ねてゆき、実証的な深奥のものを闡明《せんめい》しようとした。
「なるほど独創は平凡じゃございませんわね」と独言《ひとりごと》のように呟《つぶや》いてから、再び旧《もと》どおり冷酷な表情に返って、法水を見た。「ですから、
前へ 次へ
全700ページ中100ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング