盾が横たえられてしまったのであった。こうして、濛々《もうもう》たる莨《たばこ》の煙と謎の続出とで、それでなくても、この緊迫しきった空気に検事はいい加減上気してしまったらしく、窓を明け放って戻って来ると、法水は流れ出る白い煙を眺めながら、再び座についた。
「ところで久我さん、過去の三事件にはこの際論及しないにしてもです。いったいどうしてこの室《へや》が、かような寓意的なもので充ちているのでしょう。あの立法者《スクライブ》の像なども、明白に迷宮の暗示ではありませんか。あれは、たしかマリエットが、埋葬地《ネクロポリス》にある迷宮《ラビリンス》の入口で発見したのですからね」
「その迷宮は、たぶんこれから起る事件の暗示ですわ」と鎮子は静かに云った。「恐らく最後の一人までも殺されてしまうでしょう[#「恐らく最後の一人までも殺されてしまうでしょう」に傍点]」
法水は驚いて、しばらく相手の顔を瞶《みつ》めていたが、
「いや、少なくとも三つの事件までは[#「少なくとも三つの事件までは」に傍点]……」と鎮子の言《ことば》を譫妄《うわごと》のような調子で云い直してから、「そうすると久我さん、貴女《あなた》
前へ
次へ
全700ページ中84ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング