はまだ、昨夜の神意審問の記憶に酔っているのですね」
「あれは一つの証詞《あかし》にすぎません。私には既《とう》から、この事件の起ることが予知されていたのです。云い当ててみましょうか。死体はたぶん浄らかな栄光に包まれているはずですわ」
 二人の奇問奇答に茫然《ぼうぜん》としていた矢先だったので、検事と熊城にとると、それがまさに青天の霹靂《へきれき》だった。誰一人知るはずのないあの奇蹟を、この老婦人のみはどうして知っているのであろう。鎮子は続いて云った。が、それは、法水に対する剣《つるぎ》のような試問だった。
「ところで、死体から栄光を放った例を御存じでしょうか」「僧正ウォーターとアレツオ、弁証派《アポロジスト》のマキシムス、アラゴニアの聖《セント》ラケル……もう四人ほどあったと思います。しかし、それ等は要するに、奇蹟売買人の悪業にすぎないことでしょう」と法水も冷たく云い返した。
「それでは、闡明《せんめい》なさるほどの御解釈はないのですね。それから、一八七二年十二月|蘇古蘭《スコットランド》インヴァネスの牧師屍光事件は?」

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(註)(西区アシリアム医事新誌)。ウォ
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