落し金なんだから、どう考えても、糸で操れそうもないし、無論|床口《ゆかぐち》にも陰扉《かくしど》のないという事は、既《とう》に反響測定器で確かめているんだ」
「それだから君は、僕が先刻《さっき》傴僂《せむし》が療《なお》っていると云ったら、嗤《わら》ったのだよ。自然がどうして、人間の眼に止まる所になんぞ、跡を残して置くもんか」と一同を像の前に連れて行き、「だいたい幼年期からの傴僂には、上部の肋骨が凸凹になっていて数珠玉《じゅずだま》の形をしているものだが、それがこの像のどこに見られるだろう。だが、試しに、この厚い埃を払って見給え」
そして、埃の層が雪崩《なだれ》のように摺《ず》り落ちた時だった。噎《む》っとなって鼻口を覆いながらも瞠《みひら》いた一同の眼が、明らかにそれを、像の第一肋骨の上で認めたのであった。
「そうすると数珠玉の上の出張った埃を、平に均《なら》したものがなければならない。けれども、どんなに精巧な器械を使ったところで、人間の手ではどうして出来るものじゃない。自然の細刻だよ。風や水が何万年か経って岩石に巨人像を刻み込むように、この像にも鎖されていた三年のうちに、傴僂《せ
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