心気を失ってしまうとか申すそうでございます。で、その会が始まったのは、昨夜の正九時。列席者は当主旗太郎様のほかに四人の方々と、それに、私と紙谷伸子さんとでございました。もっとも、押鐘《おしがね》の奥様(津多子《つたこ》)がしばらく御逗留でしたけれども、昨日は早朝お帰りになりましたので」
「そして、その光は誰を射抜きましたか」
「それが、当の御自身ダンネベルグ様でございました」と鎮子は、低く声を落して慄《ふる》わせた。「あのまたとない光は、昼の光でもなければ夜の光でもございません。ジイジイっと喘鳴《ぜいめい》のようなかすれた音を立てて燃えはじめると、拡がってゆく焔の中で、薄気味悪い蒼鉛色をしたものがメラメラと蠢《うごめ》きはじめるのです。それが、一つ二つと点《とも》されてゆくうちに、私達はまったく周囲の識別を失ってしまい、スウッと宙へ浮き上って行くような気持になりました。ところが、全部を点し終った時に――あの窒息せんばかりの息苦しい瞬間でした。その時ダンネベルグ様は物凄い形相で前方を睨《にら》んで、なんという怖ろしい言葉を叫んだことでしょう。あの方の眼に疑いもなく映ったものがございました
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