」
「何がです?」
「ああ算哲――と叫んだのです。と思うと、バタリとその場へ」
「なに、算哲ですって※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」と法水は、一度は蒼《あお》くなったけれども、「だが、その諷刺《ザチーレ》はあまりに劇的《ドラマチック》ですね。他《ほか》の六人の中から邪悪の存在を発見しようとして、かえって自分自身が倒されるなんて。とにかく|栄光の手《ハンド・オブ・グローリー》を、私の手でもう一度|点《とも》してみましょう。そうしたら、何が算哲博士を……」と彼の本領に返って冷たく云い放った。
「そうすれば、その六人の者が、犬のごとく己れの吐きたるものに帰り来る――とでもお考えなのですか」と鎮子はペテロの言《ことば》を藉《か》りて、痛烈に酬い返した。そして、
「でも、私が徒《いたず》らな神霊陶酔者でないということは、今に段々とお判りになりましょう。ところで、あの方はほどなく意識を回復なさいましたけれども、血の気の失せた顔に滝のような汗を流して――とうとうやって来た。ああ、今夜こそは――と絶望的に身悶えしながら、声を慄《ふる》わせて申されるのです。そして、私と易介を附添いにしてこの室に運ん
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