な暗闘ならばともかく、あの四人の方々には、遺産という問題はないはずです」
「原因は判らなくても、あの方々が、御自身の生命に危険を感じておられたことだけは確かでございましょう」
「その空気が、今月に入って酷《ひど》くなったと云うのは」
「マア、私がスウェーデンボルグかジョン・ウェスレイ([#ここから割り注]メソジスト教会の創立者[#ここで割り注終わり])でもあるのでしたら」と鎮子は皮肉に云って、
「ダンネベルグ様は、そういう悪気《あっき》のようなものから、なんとかして遁《のが》れたいと、どれほど心をお砕きになったか判りません。そして、その結果があの方の御指導で、昨夜の神意審問の会となって現われたのでございます」
「神意審問とは?」検事には鎮子の黒ずくめの和装が、ぐいと迫ったように感ぜられた。
「算哲様は、異様なものを残して置きました。マックレンブルグ魔法の一つとかで、絞死体の手首を酢漬けにしたものを乾燥した――|栄光の手《ハンド・オブ・グローリー》の一本一本の指の上に、これも絞死罪人の脂肪から作った、死体蝋燭を立てるのです。そして、それに火を点じますと、邪心のある者は身体が竦《すく》んで
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