た。この彫像と寝台だけは、それ以前からある調度だと申されておりますが」
「開けずの間に」法水は複雑な表情を泛《うか》べて、「その開けずの間が、昨夜は、どうして開かれたのです?」
「ダンネベルグ夫人のお命令《いいつけ》でした。あの方の怯《おび》えきったお心は、昨夜最後の避難所をここへ求めずにはいられなかったのです」と凄気の罩《こ》もった言葉を冒頭にして、鎮子はまず、館の中へ磅※[#「石+(蒲/寸)」、第3水準1−89−18]《ほうはく》と漲《みなぎ》ってきた異様な雰囲気を語りはじめた。
「算哲様がお歿《な》くなりになってから、御家族の誰もかもが、落着きを失ってまいりました。それまでは口争い一つしたことのない四人の外人の方も、しだいに言葉数が少なくなって、お互いに警戒するような素振《そぶ》りが日増しに募ってゆきました。そして、今月に入ると、誰方《どなた》も滅多にお室《へや》から出ないようになり、ことにダンネベルグ様の御様子は、ほとんど狂的としか思われません。御信頼なさっている私か易介のほかには、誰にも食事さえ運ばせなくなりました」
「その恐怖の原因に、貴女は何か解釈がおつきですかな。個人的
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