驍ヘおもむろに不明な点を訊ねた。
「しかし、礼拝堂で暗中に聞えたという二つの唸《うな》りには、伸子か旗太郎か――そのいずれかを、決定するものがあるように思われるんだが」
「それは、死点《デッドポイント》と焦点《フォーカス》の如何《いかん》――つまり、音響学の単純な問題にすぎないのさ。たぶんクリヴォフ夫人の位置が、伸子がペダルで出した唸りに対して、死点《デッドポイント》。旗太郎の弓《キュー》が擦《す》れ合って起った響には、あの微かな囁《ささや》きさえも、聴き取れるという焦点《フォーカス》だったに相違ないのだ。そして、夫人が伸子の方に寄ったところを、背後から刺し貫いたのだ。ねえ支倉君、これ以上論ずる問題はないと思うが、ただただ憐憫《れんびん》を覚えるのは、伸子に操られて鞠沓《まりぐつ》を履《は》かせられ、具足まで着せられた暗愚な易介なんだよ」そう云ってから法水は、最初から順序を追い、伸子の行動を語りはじめた。勿論それによって、ピロカルピンの服用も、一場の悪狡《わるがしこ》い絵狂言であることが判明した。それから、語り終えると法水は言葉を改めて、いよいよ、黒死館殺人事件の核心をなす疑義中の疑義
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