チたのだ。勿論僕は、神意審問会の情景を再現した際に、なんとなく伸子の匂いが強く鼻を打ってきたのだ。で、試みに、譏詞《きし》と諷刺のあらん限りを尽し、お座なりの捏造《ねつぞう》を旗太郎に向けてみた。云うまでもなく、それは伸子の緊張と警戒を取り去るためだったのだが、勿論ダンネベルグ夫人の自働手記は、伸子がテレーズの名を書かせたのだったし、レヴェズの死と拇指痕の真相以外は、何一つ真実でなかったのだよ。それで、ふと黄から紅に――という一言を、アレキサンドライトと紅玉《ルビー》の関係に、寓喩《アレゴリー》として使ってみた。ところが、意外にも、それが全然異なった形となって、伸子の心像の中に現われてしまったのだ。と云うのは、ラインハルトの『抒情詩の快不快の表出』という著述の中に、ハルピンの詩『愛蘭土星学《アイリッシュ・アストロノミー》』のことが記されてある。その中の一句――|聖パトリック云いけらく獅子座彼処にあり、二つの大熊、牡牛、そうして巨蟹が《セント・パトリック・セエッド・エ・ライオン・ライス・ゼア・ツウ・ベアス・エ・ブル・エンド・キャンサー》――とその巨蟹《キャンサー》(Cancer)という個
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